中東地域でのサステナブルな挑戦

2025/7/14

中東地域でのサステナブルな挑戦

2025/7/14

「中東」と聞くと、広大な油田と石油産業を連想する方が多いかもしれません。そのイメージとは裏腹にこの地域は、持続可能な未来に向けた革新的な取り組みを加速させています。とりわけアラブ首長国連邦(UAE)とサウジアラビアは、気候変動への対応と経済の多角化を両立させるべく、国家を挙げてサステナビリティ分野のスタートアップ支援やエコシステムの形成に力を注いでいます。目覚ましい進化を遂げる両国のサステナブル・テクノロジー(サステナテック)の動向をご紹介します。

■UAEが構築するサステナテックの国際ハブ

アラブ首長国連邦(UAE)はもともと、豊かな石油資源を基盤とした経済大国として知られています。実際、UAEのGDPは2023年には約5040億米ドルに達し、中東有数の経済規模を誇ります。

近年は経済の多角化と持続可能な発展に国家戦略の軸足を移しています。特に目を引くのは、気候変動への対応と未来を見据えたサステナテックの開発支援に国家を挙げて注力している点です。

その象徴的な存在が、アブダビを拠点とするグローバルなテクノロジーエコシステム「Hub71」です。2019年に創設されたHub71は、厳格な審査を通過した100社以上の企業を支援しており、選ばれたスタートアップは運転資金やオフィススペースの無償提供、長期有効な就労ビザ取得の優遇など、手厚いサポートを受けることができます。、世界中の革新的なスタートアップを呼び込み、その成長を後押しすることで、石油産業のイメージを刷新し、技術とイノベーションによる持続可能な未来を積極的に切り拓こうとしているのです。

Hub71の支援先は多岐にわたり、中でもサステナテック関連では気候変動対策、食料問題解決など幅広い分野の企業が入居しています。例えば、UAEを拠点とするFortyGuard社は、AIを活用して屋内外の温湿度や空気品質をリアルタイムでモニタリングするシステムを開発・提供しています。このシステムは、大型商業ビルなどの空調システムを最適化することでエネルギー消費を抑制し、気候変動対策への貢献を目指しています。

さらにHub71は、UAE国外の企業も積極的に支援しています。その一つが、英国のSustainable Planet社です。同社は農業分野に特化し、高タンパク質で成長が速いウォーターレンズ(浮草の一種)を用いた代替肉の開発などを通じて、世界の食料問題解決を目指しています。また、イタリアのGreen Future Project社は、企業向けのカーボンフットプリント&ユーティリティ最適化ソフトウェアを提供しています。このソフトウェアは、企業のスコープ1、2、3の炭素排出量やリアルタイムのユーティリティ消費量を詳細に測定し、エネルギー効率の向上と脱炭素化目標の達成に向けた具体的な行動を支援するものです。

■サウジが描く2030年のビジョン

サウジアラビアは、面積が日本の約5.7倍にあたる215万平方キロメートルという広大な国土を有し、人口は約3,217.5万人(2022年時点)を擁しています。世界最大級の石油埋蔵量、生産量、輸出量を誇るエネルギー大国として知られ、これまで輸出額や財政収入の大半を石油がまかなってきました。近年は、国王や皇太子が主導する「サウジビジョン2030」の下、サステナビリティの向上に向けた取り組みに国を挙げて注力しています。

同ビジョンは、天然資源を守り、持続的な未来を確かなものにするため、新たなセクターの開発を通じて経済の多様化にフォーカスする方針を打ち出しています。この壮大なビジョンを実現するため、サウジアラビアは多岐にわたる具体的な実践を加速させています。

ビジョンの象徴的な存在が、北西部に建設中の未来都市「NEOM」です。ここでは、世界最大級のグリーン水素生産施設の建設が進み、同国内における気候変動対策とエネルギー転換の最前線を形成しています。また、紅海沿岸ではサステナビリティを重視した観光地「The Red Sea Global(紅海プロジェクト)」の開発が進んでいます。

既存産業の変革も進んでいます。自動車産業では、米国のLucid Groupが工場を設置したほか、公共投資基金(PIF)とHyundai MotorがEVを含む車両の国内生産工場を設立するなど、製造業の現地化と多様化を強力に推進しています。医薬品分野でも、PIF傘下のLifera社が国内生産の強化を通じてサプライチェーンの強靭化を図るなど、新たな産業の育成に余念がありません。

さらに、サウジアラビアはデジタル変革とイノベーションにも注力しています。AI分野では、Amazonとの提携による人材育成を進めるなど、未来の技術エコシステムを構築中です。ベンチャーキャピタルへの投資も活発化し、2023年にはサウジアラビアのスタートアップへの投資総額が14億ドルに達するなど、新たなビジネスの創出を力強く後押ししています。

これらの具体的な取り組みは、サウジアラビアが石油依存からの脱却を目指し、持続可能で多様な経済基盤を構築するための国家的な意思と、その実践に向けた圧倒的な規模とスピードを示しています。

■叡智を世界へ

アラブ首長国連邦とサウジアラビアが進めている具体的な取り組みからは、天然資源の有限性を理解し、自国の文化や社会が未来にわたって維持されることを願う、「持続可能性への意思」も感じ取れることができます。こうした国々が日本を含め、国家や地域を越えて国際的に協力することは、世界のサステナビリティに関する叡智を結集させ、課題解決を加速させる強力な推進力になることと考えます。

<参考文献>

日本貿易振興機構 政府系アクセラレーション機関の動き
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2024/619d6690294bdf3d.html

FortyGuard
https://www.fortyguard.com/

SUSTAINABLE PLANET, PRODUCT
https://sustainablepla.net/product/

内閣府 令和3年度地方創生SDGsに関する上場企業及び中小企業並びに海外都市調査業務調査報告書 海外都市調査編
https://www.chisou.go.jp/tiiki/kankyo/kaigi/pdf/sdgs_kaigai_20220325.pdf

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