サステナブル農業、二つの好影響:環境保全と経営安定化――国内外の事例から

2025/4/25

サステナブル農業、二つの好影響:環境保全と経営安定化――国内外の事例から

2025/4/25

GHG削減などサステナビリティ向上の取り組みと農業をかけ合わせた「サステナブル農業」が今、世界中で取り組まれています。持続可能性を高める手段であるオーガニック農業などの取り組みは、消費者の健康志向との親和性という側面に加えて、気候変動リスクの抑制や生物多様性の維持・回復への貢献といった観点でも再評価の機運が高まっています。今回は国内外の事例を通じて、サステナブル農業の意義と今後の展望についてご紹介します。

■「サステナブル農業」とは

サステナビリティに関する開示基準を話し合う団体としては、国際会計基準審議会(IFRS財団)傘下の「ISSB」(国際サステナビリティ基準審議会)が知られています。ISSBがすでに公表している国際基準は、国境を越えて世界中の企業が脱炭素分野に取り組むための目線合わせに役立てられています。

農業は自然環境に支えられている産業です。農業を長期的に持続可能な産業として存続させるためには、土壌の劣化、水資源の枯渇、気候変動がもたらす自然災害の多発といったリスクを抑制することが大切です。

また、「農は国の基(もとい)」と古い言葉が伝えているように、農業は経済社会の基盤となる産業でもあります。農業の持続可能性を高めることは、社会全体のサステナビリティ向上にもつながると考えられます。農業に携わる方々が安定的に十分な収入を得られるビジネス環境を整えることも重要です。

サステナブル農業は、この2つの意味での持続可能性を同時に達成することを目指すもので、具体的には環境負荷の低減、資源の有効活用、生態系の保全、地域社会との共生など、多岐にわたる取り組みが含まれます。

■国内での展開

日本では昔から農業の持続可能性を高める試みが盛んでした。たとえば、同じ土地で一年のうちに米、麦など異なる作物を生産する「二毛作」も、サステナブル農業の源流のひとつです。

農作物に関する科学的な研究の蓄積やテクノロジーの発展によって、足元でサステナブル農業の取り組みは高度化、多様化が進んでいます。今回は日本国内の事例としてオーガニック農業、太陽光パネルを活用した営農にフォーカスしてご紹介します。

取り組み①:オーガニック農業

日本国内では環境に配慮した農業として、オーガニック(無農薬)の取り組みが広がっています。オーガニック農業は、化学肥料や農薬を使用せず、自然の力を活用して農作物を生産する方法です。

オーガニック農業のメリットとしては、人体にとっての有害物質を農作物から排除することを通じた健康維持・増進といった側面が注目されてきました。最近では、環境課題の解決という観点からも、農薬をできるだけ使用しない農作物の生産が再評価されています。

たとえば、木材など生物資源を炭化した「バイオ炭」の利用が広がっています。バイオ炭は、土壌に用いることで、炭素を長期的に土壌に固定化することができ、大気中のCO2濃度を低減し、地球温暖化の進行を抑制する効果が期待されています。

取り組み②:太陽光パネルを使った営農

農業そのものの持続可能性を維持・向上するための仕組みとして、「営農型太陽光発電」への注目も高まっています。これは、農地の上に太陽光パネルを設置し、農業と発電を同時に行うというものです。

営農型太陽光発電には様々な利点(環境省資料より)

発電した電力の売却収入は、農家の方々にとって新たな収入源となり、農業経営の安定化につながると期待できます。また、発電した電力を農業用施設で利用することで、エネルギーコストの削減や、災害時の非常用電源としての活用も期待できます。

三菱総合研究所のレポートによれば、営農型太陽光発電は太陽光発電全体の導入ポテンシャルの約54%を占めるなど、高い導入ポテンシャルを有しています。営農型太陽光発電を普及させるためには、エネルギー・農業政策上の位置づけの明確化、データの蓄積と共有、自治体レベルでの土地利用のベストミックスの検討など、多角的な施策が必要になると考えられます。

■オランダで進む「農福連携」

海外に目を向けると、サステナブル農業の試みは世界各国に広がっています。ここでは、オランダの動向をピックアップいたします。

オランダは、国土面積が小さいながらも、効率的な農業技術により世界有数の農業大国となっています。オランダの農業は、環境への配慮と生産性の向上を両立させるサステナブル農業の先進事例として、世界中から関心を集めています。

■関係人口の創出で地方創生にも貢献

オランダでは、限られた国土を有効活用するため、大規模な農園で効率的な農業が行われています。一方で、小規模農業法人は国の支援を受けて、農業と福祉を組み合わせた「農福連携」事業に取り組むといった動きがみられます。農福連携は、障害者や高齢者などが農業に参加することで、社会参加を促進し、生きがいや役割を提供するとともに、農業の人手不足の解消にもつながっています。
オランダの事例を参考に、日本でも農福連携の試みが広がれば、農村に関わる人々の数(関係人口)を増やし、将来的に定住人口を増やすことで地方創生にも役立つ可能性があります。

「サステナブル農業」の潮流を、日本とオランダの事例を通してご紹介してきました。持続可能性を高めるための有機農業などの知恵と、営農型太陽光発電やバイオ炭利用といった最新テクノロジーの融合は、環境負荷の低減や農業経営の安定化や社会を支える食料システムの強靭化に貢献する可能性を秘めています。特に気候変動リスクに直面する現代において、サステナブル農業の重要性はいっそう高まっていると言えます。持続可能な農の実践も、気候変動解決に向けた多様なアプローチの一つとして、社会がより持続可能で豊かな未来へ歩む力強い後押しになると考えます。

<参考文献>

環境省 営農地を活用した太陽光発電の導入について
https://www.env.go.jp/content/000211360.pdf

農林中金総合研究所 農林金融
https://www.nochuri.co.jp/wp/wp-content/uploads/2025/01/nri2502.pdf

三菱総合研究所 営農型太陽光発電の導入拡大に向けて
https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20241204.html

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