カーボンクレジット取引の国際動向とルールの運用化

2025/2/14

カーボンクレジット取引の国際動向とルールの運用化

2024/2/14

カーボンクレジット取引は、気候変動対策の一環としてCO2排出削減を市場メカニズムで促進する重要な手法です。各国のカーボンニュートラル宣言や企業の脱炭素経営への取り組みに伴い、カーボンクレジット市場への国際的な関心が年々高まっています。実際、カーボンクレジット市場は急速に拡大しており、ボランタリークレジットだけでも2030年には500億米ドル(約7兆円)規模に達するとも言われています。こうした背景から、国際的にもカーボンクレジット取引のルール整備がどんどん進んでいます。

国際的なルール整備の進展

パリ協定の下では、第6条が国際的なカーボンクレジット取引(市場メカニズム)に関する規定となっています。近年、各国はこのパリ協定第6条の具体的なルール作りを続けてきました。その集大成として、2024年11月にアゼルバイジャンのバクーで開催されたCOP29(パリ協定第6回締約国会合=CMA6)において、第6条の詳細な運用ルールが合意・決定され、国際ルールの完全運用化が実現しました。これにより、各国が協力して温室効果ガスの削減や吸収・除去に取り組む際の環境的な完全性(環境十全性)や透明性を確保する仕組みが整い、各国政府や企業が協調して進める気候対策の拡大・加速が期待されます。

COP29で決定されたルールには、以下のようなポイントがあります。

• 政府の承認手続きの明確化: 国際的にクレジット(ITMO: 移転された削減量)をやり取りする際に各国政府が行う承認プロセスが定められ、承認に含める項目(承認日や期間、クレジット量、使用先となるNDC目標など)が標準化されました。一度承認・初回移転されたクレジットの承認内容は原則として変更できないことも決まり、透明性と信用性を高めています。

• 報告と記録のルール策定: 各国は第6条に基づく協力的アプローチ(Article 6.2)を実施する際、初期報告や年次報告で提供すべき詳細情報や報告書様式が新たに定められました。

• また、クレジットの発行・移転をトラッキングする国際登録簿と、各国の国内登録簿が接続可能となり、両者を連携させることでクレジットの記録を相互に参照できる体制が構築されていきます。

企業にとっての影響

国際的なカーボンクレジット取引のルールが整備されたことで、企業活動にもさまざまな影響が及ぶと考えられます。各国政府間でのクレジット取引が円滑化すれば、企業は自社の排出削減プロジェクトを海外と連携して進め、クレジットを創出・活用する機会が増えると予測されます。

企業は自社の気候目標達成の手段として、排出権取引市場でクレジットを購入したり、海外プロジェクトに投資してクレジットを獲得したりする戦略を検討しやすくなります。また、パリ協定6条に準拠した国際クレジットはダブルカウント(二重計上)防止の仕組みが確立されるため、企業にとって信頼性の高い相殺(オフセット)手段となり得ます。
一方で、市場拡大に伴いクレジットの質の見極めもこれまで以上に重要になります。近年、一部の低品質なプロジェクトによるクレジットや、見せかけの環境配慮や気候変動対策(グリーンウォッシュ)への懸念も指摘されています。

そのため企業は、利用するクレジットが厳格なMRV(測定・報告・検証)基準を満たし、公的な承認を受けたものであるかを慎重に確認する必要があります。
このように、企業にとって国際的なルール整備は新たなビジネス機会であると同時に、適切な対応策を講じるための情報戦でもあります。脱炭素化社会への移行期においては、情報のアンテナを高く張り、変化に迅速に対応することがさらに求められてきます。

今後の展望

カーボンクレジットの取引について国際ルールの枠組みが整ったことで、今後は実際の運用と市場の拡大フェーズに入っていきます。こうしたインフラ面の整備により、各国間でクレジットが実際に移転・相殺されるケースが増え、国境を越えたカーボンマーケットが本格的に動き出すと期待されます。さらに国際協力も今後一層重要になります。発展途上国では高品質な排出削減プロジェクトを実施するための資金や技術が不足している場合がありますが、第6条のルールに基づくクレジット取引は先進国から途上国への資金と技術の流れを促進し、グローバルな気候資金の動員につながります。
政府も企業もその枠組みを活用し、国際協力と市場メカニズムの相乗効果によって、世界全体での温室効果ガス削減がさらに推進されることと見込まれています。

<参考文献>

Deloitteカーボンクレジット市場の整理と新規参入の可能性
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/strategy/articles/vs/carbon-credits.html

環境省 COP29(CMA6)におけるパリ協定第6条の完全運用化の実現について
https://www.env.go.jp/content/000269848.pdf

環境省 国連気候変動枠組条約第29回締約国会議 (COP29)結果概要
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/chikyu_kankyo/ondanka_2050/pdf/006_03_00.pdf

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