拡大する「蓄エネルギー」の現在地と未来の姿

2024/09/30

拡大する「蓄エネルギー」の現在地と未来の姿

2024/09/30

電気や熱といったエネルギーを効率よく保存する「蓄エネルギー」に関する研究・開発が世界中で進められています。太陽光や地熱など再生可能エネルギーによって生み出した電力を効率よく保存して安定供給につなげるためには、バッテリーなどの蓄電池に加え、蓄熱発電など様々な技術を組み合わせ、最適で効率的な仕組みを作り出すことが大切です。今回は、今世界が注目している蓄電、蓄熱のテクノロジーについて、国内外の最新の動向をまじえてご紹介します。

「蓄エネルギー」が注目されているワケ

「蓄エネルギー」とは、作り出した電気をしばらくの間、使わずに取っておくことを意味します。大切な電力を無駄なく効率よく使いきるうえで、大切な役割を果たしています。

作り出したけれどもすぐに使い切れずに、余ってしまった電気のことを「余剰電力」といいます。
たとえば太陽光発電は、日射量が多い日により多くの電力を作り出します。基本的には気温が上昇すればエアコン利用率の増加によって需要と供給が均衡するはずですが、冬の間にとつぜん暖かい日が訪れるといったケースでは、せっかく作り出した電力が使われないままになってしまう可能性があります。

そこで、余分に作ってしまった電力を蓄えておくことで、安定的に電力を供給する仕組みの整備が重要になります。再生可能エネルギーそのものを安定的で持続可能にすることが、蓄エネルギーの大きな目的といえます。

蓄エネルギーの代表的な技術として、電気を蓄積する「蓄電」と、熱を蓄える「蓄熱」の2つがあります。今回はそれぞれの技術の基本と最新の動向をご紹介します。

蓄電技術拡大がもたらす2つのメリット

蓄電の技術が拡大することは、社会全体にとって2つのメリットがあります。

ひとつは、発電によって発生するコストの削減です。蓄エネルギーは、余分に作り出してしまった電気を一時的に蓄えておいて、発電量が足りない時間帯に回すことができます。そうすると、発電所の稼働量を抑えることができるだけでなく、設備の規模自体を最小限に抑えることができるので、全体として発電のためのコストを抑えることができます。

もうひとつのメリットは、発電によって生じるCO2などのGHG(温室効果ガス)排出量の削減できることです。先ほども触れたように設備の数や稼働量を必要最小限にとどめることで、GHG排出量も低減でき、気候問題の解決につながると期待できます。

実際に、日本国内でも2020年代に入ってから、電力系に直接接続する「系統用蓄電池」の導入が急速に拡大しています。国の推計では30年に累計14.1~23.8GWh程度の導入が見込まれています。家庭用、業務・産業用蓄電池についても、同年に累計約24GWhに拡大する見通しです。

政府は需要拡大に対応するため、遅くとも2030年までに国内製造基盤150GWhという計画を打ち出しています。現在は液系リチウムイオン蓄電池(LIB)が主流ですが、より長期間にわたって電力を貯めることができる次世代蓄電池として、全固体リチウムイオン蓄電池への移行が期待されています。

また、電気自動車(EV)の普及も、蓄電池の拡大の追い風となっています。
車載用蓄電池の市場拡大が見込まれる中で、環境負荷の少ないEVバッテリーの効率的な流通を推進するよう、国際的なルール作りも急速に進められています。たとえば欧州23年8月に発行した新規則(改正バッテリー指令)は、ひとつひとつの蓄電池に固有IDとして「バッテリーパスポート」を付与し、材料の調達経路や有害物質に関する情報などを必要に応じて共有できるようにする仕組みを打ち立てています。

電池の材料として欠かせないニッケルやコバルトなどについては、産出国で健全な労働環境が確保されているかどうかを心配する声もあります。バッテリー規則などの制度整備が進むことによって蓄電池のトレーサビリティ(追跡可能性)が向上することで、持続可能な資源利用や環境保護、社会的責任の強化が期待されています。

蓄熱は蓄電への応用拡大にも期待

また各国で積極的な技術開発が進められているのが、エネルギーを熱の形で蓄える蓄熱の分野です。

蓄熱は蓄電と完全に別々の技術ではなく、実は互いに密接な関係にあります。蓄熱技術でためた熱エネルギーは、最終的に電力に転換することが可能です。蓄熱は、蓄電技術の一つでもあるといえます。

蓄熱と太陽光発電を併用する施設の例(環境省公表資料より)

一般的な蓄電池の蓄電時間が数分から数時間であるのに対し、蓄熱発電では数時間から数日と長期の保存が期待できます。さらに蓄熱発電は、他の蓄電手段よりも設置コストを抑えやすいというメリットがあります。現在の技術では電気を蓄えておける時間にやや制限がありますが、化学変化を利用し、より長時間にわたってエネルギーを確保できる新技術の開発が進められています。また、床暖房など最終的に熱エネルギーの形で消費する場合には、蓄電よりも蓄熱の方がエネルギーのロスが少ないという利点もあります。

地熱と蓄熱を組み合わせる試み

ここで、蓄エネルギーの分野で技術開発に取り組んでいる企業をご紹介します。
地熱技術の開発に取り組むアメリカのFervo Energy(ファーボ・エナジー)社は、地下の高温岩体層に蓄えられているエネルギーを、発電や熱源として利用するシステムを開発しています。

石油ガス産業で長年培われてきた水平掘削、水圧破砕などの技術を応用している点に特徴があります。計画が実現すれば、地熱を利用できる土地の範囲が飛躍的に拡大するかもしれません。同社の基本的な取り組みは地熱発電に分類されますが、水圧調整などの技術を組み合わせることにより、蓄熱システムとしての応用も期待されています。

「鉄」を使ってコストを下げる工夫も

もう一つご紹介するのが、同じくアメリカでForm Energy(フォーム・エナジー)社です。同社は従来の蓄電池よりも低いコストで電力を保存できる鉄空気電池の開発に取り組んでいます。

鉄空気電池の材料はその名の通り「鉄」です。従来の蓄電池はリチウム、ニッケルなど希少性の高い鉱物を使用していたことからコスト面で課題がありましたが、鉄空気電池の大量生産が実現すれば、蓄エネルギー全体の費用を低減できるかもしれません。

脱炭素産業の分野では、再生可能エネルギーを生み出すさまざまな手段の研究・開発が進んでいます。せっかく作り出したエネルギーを有効に効率よく活用するためには、蓄電・蓄熱を含めさまざまなテクノロジーについて正しい知識を身につけ、それぞれの特性をうまく組み合わせる知恵と工夫がいっそう重要になりそうです。

<参考文献>

経済産業省 参考資料
https://www.meti.go.jp/press/2023/12/20231222005/20231222005-06.pdf

三井物産戦略研究所 脱炭素社会に向けて開発進む蓄熱発電
https://www.mitsui.com/mgssi/ja/report/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/03/02/2102m_inada.pdf

Fervo Energy社
https://fervoenergy.com/

Form Energy社
https://formenergy.com/

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