
「国際生物多様性の日」100万種が直面する危機と、2030年ネイチャーポジティブが意味するもの
2026/05/22「国際生物多様性の日」100万種が直面する危機と、2030年ネイチャーポジティブが意味するもの
2026/05/22
「国際生物多様性の日」100万種が直面する危機と、2030年ネイチャーポジティブが意味するもの
毎年5月22日は、国連が定める「国際生物多様性の日(International Day for Biological Diversity)」である。1992年5月22日に生物多様性条約(CBD)の本文が採択されたことに由来し、世界各地で生物多様性をめぐる対話と行動の機会が設けられている。2026年のテーマは「Acting locally for global impact(地域の一歩が、世界を動かす)」とされ、地域の取組と社会全体の協働が改めて問われる年となることが期待される。
近年、気候変動と並ぶ地球規模の課題として、「生物多様性の損失」が国際的議題の中心に位置づけられるようになってきた。本稿では、世界の生物種の現状、絶滅の進行状況、そして2030年に向けて世界が共有する目標「ネイチャーポジティブ」について、最新の国際機関の知見を整理する。
■地球上の生物種と、私たちが知っていることの範囲
国際的に命名・記載されている生物種は、現時点で約200万種にのぼると考えられている。一方、地球上の生物種の総数については、約870万種(誤差±130万種)という推計が広く引用されており、研究によってはさらに多い可能性も指摘されている。いずれの推計に立ったとしても、現在記載されている種は全体の2割に満たず、残る8割超は科学的に確認されないまま存在していると考えられる。
すなわち、私たちは地球上に存在する生命の大半について、その姿を把握できていない状態にあると言える。
■100万種が絶滅の危機に ―― IPBESが示した現状
2019年、生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)は、これまでで最も包括的な地球規模アセスメントを公表した。その中で、約100万種の動植物が絶滅の危機に瀕していること、そして現在の種の絶滅速度が、過去1,000万年間の平均の少なくとも数十〜数百倍に達していることが報告されている。
国連生物多様性条約(CBD)も、かつて「毎日最大150種が失われている」との発信を行ってきた。1日あたりの数値については科学的な推計の幅があるものの、毎年数千〜数万種規模で生物が地球から姿を消しているという見方は、多くの科学者の間で共有されていると考えられる。
現在の状況は、地球史における「第6の大量絶滅期」と表現されることもあり、過去5回の大量絶滅とは異なり、特定の生物種である人類の活動が直接の要因となっている点が、これまでにない特徴であると考えられる。
■2030年ネイチャーポジティブ ―― 自然のためのパリ協定
こうした状況を反転させるべく、2022年12月、カナダ・モントリオールで開催されたCBD締約国会議(COP15)において、「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」が採択された。世界196の国と地域が、2030年までに生物多様性の損失を「止める」だけでなく「反転させる」――すなわち、ネイチャーポジティブな世界を実現することを共通目標として掲げたものである。
枠組には23の行動目標が含まれており、なかでも陸・淡水・海洋の30%を保全し、劣化した生態系の30%を回復させる「30by30」目標は、気候変動対策における「1.5度目標」に匹敵する象徴的な意味を持つと考えられる。気候変動に関する世界合意がパリ協定であるならば、ネイチャーポジティブは「自然のためのパリ協定」と位置づけられると言える。
日本国内においては、環境省を中心に「2030生物多様性枠組実現日本会議(J-GBF)」が設置され、政府・経済界・市民社会の連携によるネイチャーポジティブ実現に向けた取組が進められている。今後、企業のサステナビリティ戦略においても、気候変動対応と並んで、生物多様性・自然資本への対応が経営課題として位置づけられていくものと期待される。
■生物多様性が支える経済と暮らし
生物多様性の損失は、自然そのものへの影響にとどまらない。たとえば、私たちの健康を支える「医薬品」は、生物多様性に強く依存している。
世界保健機関(WHO)は、現代の医薬品の50%以上が自然由来であると指摘している。CBDの整理ではさらに踏み込み、登録医薬品の8割以上が、自然から取り出された成分、あるいはそこから着想を得たものであるとされている。アスピリンの原料であるヤナギの樹皮、抗マラリア薬キニーネの原料であるキナの木、抗がん剤ビンクリスチンの原料であるニチニチソウ、そして抗生物質ペニシリンを生む青カビ――私たちの命を支える薬の多くが、特定の植物や微生物に依存しているのが現実であると考えられる。
CBDはさらに、生物多様性の損失によって「2年に1つの重要な薬が失われている可能性がある」と警鐘を鳴らしている。発見される前に絶滅してしまった種のなかに、いまだ治療法の確立していない疾患の決定打となる成分があったかもしれない。この事実は、ひとつの種の喪失の重みを改めて問い直すものであると考えられる。
加えて、食料生産における植物の受粉を担う昆虫、淡水を浄化する湿地生態系、土壌の循環を支える微生物、災害を緩和する森林やマングローブ林など、私たちの経済と暮らしの足元は、無数の生きものの相互作用によって成り立っていると考えられる。生物多様性は、人類の生存基盤そのものであると言える。
■2030年まで、これからの選択
絶滅は、一度起こってしまえば取り戻すことはできない。だからこそ、2030年までの残された期間は、人類にとって決定的な10年と位置づけられている。
2026年のテーマである「地域の一歩が、世界を動かす」が示唆するように、ネイチャーポジティブな未来は、国際的な合意や大規模な政策のみによって実現されるものではない。企業、自治体、市民社会、そして一人ひとりの行動の積み重ねが、世界全体の流れを形づくっていくものと考えられる。
5月22日「国際生物多様性の日」を契機に、私たち一人ひとりが、足元の自然と、未来世代へと手渡す地球の姿に改めて目を向け、それぞれの立場で行動を選び取る一日となることが期待される。
<参考文献>
環境省「国際生物多様性の日(5月22日)について」
https://www.env.go.jp/press/press_04478.html
IPBES "Media Release: Nature's Dangerous Decline 'Unprecedented'; Species Extinction Rates 'Accelerating'"
https://www.ipbes.net/news/Media-Release-Global-Assessment
CBD "Kunming-Montreal Global Biodiversity Framework"
WHO Fact Sheet "Biodiversity"
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/biodiversity
脱炭素化について
お気軽にご相談ください

