里山・リジェネラティブ農業と古民家再生
2026/2/19里山・リジェネラティブ農業と古民家再生
2026/2/19
「現場」に立つことで変わる、サステナビリティへの向き合い方
サステナビリティに関する制度や開示基準の整備が進む中、ある企業のご担当者からは「知識は増えたが、自分の仕事にどうつなげればよいかわからない」という声が聞かれることがあります。資料やデータだけでは、どうしても実感を伴いにくいのかもしれません。そうした中、里山での農業体験や古民家の再生活動といったフィールドでの実体験を通じて、サステナビリティの本質的な理解を深める動きが広がりつつあります。今回は、リジェネラティブ(再生型)農業や地方の里山が持つ可能性と、そこでの体験がビジネスパーソンの視座をどのように変えうるのかについてご紹介いたします。
■里山:サステナビリティの論点が凝縮された「縮図」
日本の里山は、水田・畑・雑木林・水路・集落が一体となった複合的な環境です。田んぼひとつをとっても、水・土壌・気象・生物・地域の担い手といった多様な要素が相互に依存しており、どれかひとつが欠けても持続することができません。 この構造は、個人的に考えますが、企業のサプライチェーンの姿と重なると考えています。原材料の調達から製造、物流、販売に至るまで、企業活動もまた多くのステークホルダーと自然資本に依存する「複合システム」です。他コラムでも以前、「生物多様性とネイチャーポジティブ」で、企業が自然への依存と影響を把握する重要性をご紹介しましたが、里山はまさにそうした依存関係を五感で体感できるフィールドといえます。 気候変動・生物多様性・水資源・資源循環・地方創生。サステナビリティの主要な論点が一か所に凝縮されているからこそ、里山に身を置くことで、机上では見えにくかった「つながり」が実感を伴って理解できるようになると考えられます。
■再生する農業:リジェネラティブ農業という考え方
近年、世界の農業分野で注目を集めているのがリジェネラティブ農業(再生型農業)です。従来の農業が環境負荷を「減らす」ことを目指してきたのに対し、リジェネラティブ農業は土壌の健康や生態系を積極的に回復させることを目指すアプローチです。不耕起栽培や被覆作物の活用、輪作、堆肥の活用などを通じて土壌中の有機物を増やし、炭素を土壌に貯留することで、気候変動の緩和にも寄与するとされています。 日本の里山における伝統的な農業には、リジェネラティブの考え方と重なる知恵が数多く存在します。水田における水管理は生物多様性の維持に直結し、落ち葉を堆肥にして土に還す循環は、化学肥料に頼らない土壌づくりの基盤などにもなっています。こうした営みは古くから日本各地で実践されてきたものです。 リジェネラティブ農業の特徴は、単一の最適解ではなく、水・土・生物・人が相互に作用する中で全体のバランスを保つという点にあります。これは、企業がサプライチェーン全体で環境負荷と事業リスクを管理していくうえでも、示唆に富む視点ではないかと考えます
■古民家再生と地域の持続可能性
里山の風景を形づくる要素のひとつが、古民家です。全国各地で空き家の増加が課題となる中、古民家を修復・再生して宿泊施設やコミュニティスペースとして活用する動きも広がっています。 古民家の再生は、単なる建物のリノベーションにとどまりません。地域の木材や土壁といった自然素材の活用は資源循環そのものであり、新築に比べて建設時のCO2排出を大幅に抑えることができます。また、地域の職人技術の継承や、移住・関係人口の拡大、農泊を通じた地域経済の活性化、関係人口の増加など、社会面でのインパクトも少なくありません。 こうした取り組みは、「リジェネラティブ・ツーリズム(再生型観光)」とも呼ばれる潮流の一端です。従来の観光が地域の資源を消費するものだったのに対し、訪問者が地域の環境や暮らしをより良くして帰るという考え方が、国内外で注目されています。
■現場に立つことで変わるサステナビリティの捉え方
里山での農業体験や古民家での滞在には、資料やデータだけでは得られない気づきがあるといわれています。
「相互依存」を身体で理解してみる
田植えや草取り、稲刈りといった共同作業では、役割分担や段取り、天候への対応が求められます。ひとりでは完結しない作業を通じて、「自分だけではできない」「すべてがつながっている」という感覚を体で理解することができます。これは、サステナビリティが本質的に相互依存の課題であることを腹落ちさせる体験になりえます。
抽象的な概念を「自分の仕事」に変換する
里山で目の当たりにする水管理や土壌の変化、生き物の多様さは、SSBJやTCFDといった開示フレームワークで語られる「依存」「影響」「リスク」「機会」を、具体的なイメージとして捉え直すきっかけになります。たとえば「水リスク」という言葉は、水路が詰まって田んぼに水が行き渡らない現場を見れば、抽象的な概念から実感を伴う課題へと変わります。
「現場のリアリティ」が説得力を生む
地域の農家の方や住民との対話を通じて得られる現場のリアリティは、社内での発信や提案に説得力を加えます。サステナビリティのフレームワークとあわせて、「実際に現場で見てきた」という経験が、周囲を巻き込む力にもつながると思います。
■知識を「実装力」に変えるために
サステナビリティを組織経営に組み込んでいくためには、制度や開示基準の理解に加えて、それを自社の事業や日々の業務に翻訳して落とし込む力が求められると考えております。里山やリジェネラティブ農業、古民家再生の現場には、そうした翻訳力を養うためのヒントが詰まっています。 すべてが整うのを待つのではなく、まずは現場にも足を運び、五感で感じることから始めてみる。その一歩が、サステナビリティを「知っている」から「動ける」へと変える転換点になることも期待されます。
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