中堅・中小企業が気になる脱炭素の現実、支援施策と未来展望

2025/9/15

中堅・中小企業が気になる脱炭素の現実、支援施策と未来展望

2025/9/15

「脱炭素は大切だが、費用負担が大変」。中堅・中小企業経営者が抱えるこの本音は、商談でお伺いすることがあります。実際、統計を見ても中小企業の約7割が何らかの脱炭素への取り組みを始めている一方で、最大の障壁として挙げられるのは、コストです。しかし取引先から脱炭素やサステナビリティ関連の開示などの協力要請を受けている企業は年々増えており、資金支援を求める声は約7割に達し、エネルギー価格高騰の影響を受けている企業も8割以上に上ります。まずはこうした状況を確認しつつ、資金・技術・体制を総合的に整えていくことが、持続可能な脱炭素経営への第一歩となっていきます。

■現状と課題の整理

コストの課題は、特に省エネ設備への更新や再生可能エネルギー導入における初期投資の重さに起因します。経営判断が遅れがちになる背景には、投資回収の見通しが立てにくいという事情もあります。日々の運用改善は比較的進んでいるものの、それだけでは削減効果に限りがあるのも事実です。

サプライチェーンの観点では、多くの企業が取引先から脱炭素への対応要請を受けています。その内容は「排出量の把握」「削減計画の策定」「情報開示」という3点セットが基本となっており、これらへの対応スピードが企業の信用力に直接影響するようになってきています。データ管理やCO₂排出量算定の基準対応では、電力等の排出係数の最新公表値を用いることが実務上の必須要件です。自社の契約メニューに即した係数選択と数値管理は、継続的に更新・管理することが不可欠です。

■成功事例から学び・ヒント

先進的な取り組みとして注目されているのがZEB(ネットゼロ・エネルギー・ビル)化です。高断熱化と太陽光発電・蓄電池、さらにBEMS(ビルエネルギー管理システム)やHEMS(家庭用エネルギー管理システム)を統合することで、省エネとレジリエンスの両立を実現しています。国土交通省の「サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)」では、先導的部分について補助率1/2、上限3億円/件の支援が受けられた実績もあります。センサーと制御技術の組み合わせも効果的で、人流やCO₂濃度、温湿度をトリガーとして空調・照明をゾーニング制御することで、「使い方」の最適化が大幅な省エネにつながっています。

地域連携の好例として、環境省の「地域脱炭素ステップアップ講座」もあります。自治体・民間企業・金融機関が協働し、その場で計画骨子を策定する実践的なプログラムで、脱炭素・サステナビリティ経営の参考にもなります。

■企業価値への影響と未来への道筋

脱炭素への取り組みは、社会貢献の枠を超えて企業価値に直結するようになってきております。CO₂排出量の算定(見える化)から改善(運用・投資)、情報開示という循環が、調達・与信・入札における信用力を左右します。

コスト構造の最適化には、運用改善による「今すぐの削減」、補助・税制活用による「回収年数の短縮」というアプローチが有効です。またPPA(再エネなど電力の長期売買契約)では、価格改定・早期終了時の取り扱い、環境価値の帰属(非化石証書やトラッキングの扱い等)を契約で明確化することが肝要です。2050年カーボンニュートラルに向けては、地域連携の枠組みと企業投資を結びつけ、地域単位で需要創出・人材育成・レジリエンス向上を同時に進めることが重要になってきます。

■実践的な進め方:クイックに成果を出すために

まずは現状のCO₂排出量や企業活動の「見える化」を行います。請求書や稼働データから基準年を確定し、電力は事業者別・メニュー別の最新係数を適用して、算定することが可能です。

次に温度設定の見直しや圧縮空気漏れの修繕、待機電力の削減、需要平準化など、投資ゼロまたは小額投資でコスト削減しつつ脱炭素の即効性のある取り組みから始めます。

それから、小規模投資として、インバータ空調や高効率モーター、断熱改修、コンプレッサ更新などを検討します。先導事業の評価軸(断熱×創エネ×BEMS)を自社の設備更新基準に転用し、費用対効果とレジリエンスを同時評価します。

他にも、もちろん、再生可能エネルギーの導入検討もあります。自家消費型かPPAモデルかを選択し、保守・性能保証・受給契約・価格改定条項・環境価値の帰属を事前に整理しておくことが重要です。

資金最適化では、補助金と税制優遇を併用して投資の採算性(元が取れるスピード)を高め、金融機関や自治体との連携も進めます。金融機関によってはグリーンローンやサステナビリティ・リンク・ローンを提供するところもあり、金利が気になる状況であれば特に有効です。サプライチェーン対応では、共通様式で原単位KPIを月次運用し、要請に先回りして改善と開示をワンセットで実施します。

脱炭素については出来ることが沢山ありますが、適切な支援施策を活用し、段階的かつ戦略的に取り組むことで、コスト負担を抑えながら着実に成果を上げることは可能です。まずは初期診断から始めて、早期に効果を実感できるように取り組みを進めていくのがよいと思われます。

<参考文献>

日本商工会議所・東京商工会議所 調査
https://www.tokyo-cci.or.jp/file.jsp?id=1206619

国土交通省 サステナブル建築物等先導事業(省CO₂先導型)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001908785.pdf

環境省 地域脱炭素ステップアップ講座
https://www.env.go.jp/policy/local_keikaku/stepup2024/index.html

経済産業省 カーボンニュートラル投資促進税制
https://www.meti.go.jp/policy/economy/kyosoryoku_kyoka/cn_zeisei.html

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