東証が求める「持続的成長」とは?企業の取り組み事例をご紹介
2024/05/02東証が求める「持続的成長」とは?企業の取り組み事例をご紹介
2024/05/02東京証券取引所が「資本コストを意識した経営」を呼び掛けてから、1年余りが経ちました。企業側で取り組みが進められる中、持続性と収益力は相互に高め合うことができるという認識がいっそう広がりつつあります。サプライチェーン全体で積極的なCO2排出削減サポートに乗り出すなど、PBR(株価純資本倍率)改善への取り組みがサステナビリティの向上と密接にいかにつながっているかを示す日本国内の事例を3つご紹介します。
■PBR改善要請の「目標」とは?
まずは東証による要請の中身について、あらためて確認してみます。
23年3月、東京証券取引所上場部が公表した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」。この中で、単に損益計算書上の売上や利益水準だけを意識するのでなく、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を追求するよう各企業に促しています。サステナビリティと収益力の両立を目指す東証の基本的な姿勢が見て取れます。
取引所の要請と足並みを揃えるように、翌4月には金融庁が「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム」を公表。「サステナビリティを意識した経営」を重点的な課題の一つに掲げ、好事例の共有などを通じて持続性向上への行動の深化を求める考えを明記しました。
このように取引所と政府はどちらも、PBR引き上げなどを通じて株主を含む広範で多様なステークホルダーの利益を最大化するためには、サステナビリティ向上への取り組みが重要という考えを打ち出しています。24年4月には日経平均株価が史上初の4万円台を記録しましたが、株高を支えた要因の1つとして、持続的成長と資本コストを意識した各企業の経営戦略への評価の高まりがあったと思われます。
■事例:ソニー、サプライチェーン全体に積極的働きかけ
サステナビリティへの取り組みに対する市場の評価もありPBRが2倍を超えているソニーグループ(以下、ソニー)。当社は従来から、テレビ、カメラなど主力電子製品の製造、販売にかかるサプライチェーン全体での環境配慮を目指しています。東証が全上場企業向けに要請を出したあとも、当社が手掛ける幅広い事業領域でサステナビリティを追求し続けています。
脱炭素分野におけるソニーの取り組みの特色は、取引先中小企業を含むサプライチェーン全体への積極的な働き掛けです。
サステナビリティレポートによると、同社は原材料・部品サプライヤー、製造委託先に対して、(1)温室効果ガス(GHG)排出量の把握と、排出削減に関する長期・中期目標の設定と進捗管理、そして(2)立地する地域の水枯渇リスクを考慮した水使用量削減目標の設定と推進管理を求めています。
同時に、ソニーに能雄される原材料・部品・製品の製造にかかわるGHG排出量・水使用量などの把握のため、環境負荷低減に関する取組調査も実施しているということです。
中小企業に対するサポート体制も注目です。
GHG排出量の算出過程において課題が認められるサプライヤーに対しては、排出量算出を支援するためのツールやガイダンスを提供し、ツールの使用方法を解説する動画を配信するという徹底ぶり。こうした後押しの結果、「調査対象の全サプライヤーが自身のGHG排出量を算出し、把握」(同レポート)したといいます。
また、2022年度からは「パートナーエコチャレンジプログラム」を開始。このプログラムは、世界各地の事業所で蓄積した省エネ活動のノウハウを、取引先サプライヤーに提供するというものです。エネルギー管理などに精通した担当者がサプライヤーを訪問し、製造現場の改善点を抽出。その後もソニー側が定期的に進捗確認、活動サポートを実施し、半年間のプログラム期間中に現場社員における主体的な改善活動を促して、効果を検証するという流れを作っています。
■事例:日本ガイシはLCAの算定対象を拡大
現時点でPBR1倍割れの企業の中でも、サステナビリティを中心としたビジネスモデルの構築を推進している企業が多く存在します。。
日本ガイシは、21年4月、「NGKグループビジョンRoad to 2050」を策定。ESG対応を経営の中心に位置付けました。同時に公表した「NGKグループ環境ビジョン」の達成に向け、「カーボンニュートラル戦略ロードマップ」を打ち出しました。このロードマップは、(1)カーボンニュートラル関連製品・サービスの開発と提供(2)トップダウンでの省エネ強化(3)技術イノベーションの推進(4)再生可能エネルギー利用の拡大という4つの戦略で構成されます。
同社は、製品・サービスの資源確保、消費、廃棄などライフサイクル全体の環境負荷を定量的に評価する「ライフサイクルアセスメント」(LCA)を積極的に実施しています。21年度に主要2製品(NAS電池、ハニセラム)の算定を実施し、その後も順次対象を拡大しています。
■事例:日本製紙は木材調達でアクションプラン
日本製紙グループは、「木とともに未来を拓く総合バイオマス企業」を掲げ、カーボンニュートラル実現に資するビジネスモデルの構築を進めています。
特に、同社はバイオマス関連の研究開発に注力。双日株式会社と共同で発電事業会社「勇払エネルギーセンター合同会社」を設立し、2023年2月にはバイオマスを中心とした発電設備として国内最大級の発電所を稼働させました。
また、持続可能な木材資源調達を実現するためのアクションプランを制定。国産材、海外材それぞれについて、トレーサビリティ(追跡可能性)などを高める取り組みを推進しています。年1回のサプライヤー向けアンケート調査を通じ、人権や生物多様性への配慮、取引の公正性を深化させる働きかけを行っています。
■国の後押しでサステナビリティ経営はさらに拡大へ
東証の「資本コストを意識した経営」要請を含めたさまざまな後押しを背景として、このようにサステナビリティ経営が企業の間で広がりつつあります。今回ご紹介した事例からは、脱炭素の取り組みがPBR改善を図る大企業にとどまらず、その取引先にあたる中小企業にも波及している状況が見て取れます。
国は足元、企業への成長資金の出し手であるアセットオーナー(年金基金などの機関投資家)に対し、幅広いステークホルダーの最大利益を追求するよう促す行動規範を新設する準備を進めています。官民一体となった脱炭素戦略の高度化によって、持続性を意識した経営戦略がいっそう浸透・定着することになりそうです。
(参考文献)
日本取引所 資本コストを意識した経営の要請
https://www.jpx.co.jp/news/1020/20230331-01.html
日本取引所 グループの市場区分の見直し後のフォローアップ
https://www.jpx.co.jp/equities/follow-up/index.html
ソニー サステナビリティに関する取り組みについて
https://www.sony.co.jp/corporate/sustainability/
日本ガイシ カーボンニュートラルへの取り組み
https://www.ngk.co.jp/sustainability/environment-cn.html
日本製紙グループ 気候変動問題への対応
https://www.nipponpapergroup.com/csr/npg_esgdb2023_P26-38.pdf
金融庁 スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(第28回)
https://www.fsa.go.jp/singi/follow-up/siryou/20230419.html
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