「サステナブル・リスキリング」の最前線

2024/03/29

「サステナブル・リスキリング」の最前線

2024/03/29

脱炭素を含むサステナブル分野の知見を持った人材のニーズが高まる中、オンライン上で専門的な教育プログラムを提供するサービスが注目を集めています。リスキリング(技術革新やビジネスモデルの変革に対応するために、新たな知識やスキルを習得すること)に対する関心の高まりと相まって、サステナビリティ分野は新たなスキルを身に着け、キャリアの選択肢を広げるための魅力的な研究テーマになっているといえるでしょう。海外大学の学士、修士号などが取得できるプラットフォームなどの事例を含め、サステナブル人材育成の現状と、サービス活用を検討する際に押さえておきたいポイントについてご紹介します。

サステナ人材の確保は企業の「最重要課題」

内閣府が行った調査において、脱炭素化に向けた取り組みを進めるうえで最も影響が大きな課題を企業に尋ねたところ、「必要なノウハウ、人員が不足している」が回答全体の4割近くを占めました(内閣府「カーボン・ニュートラルが企業活動に及ぼす影響について」より)。
サステナビリティ分野の人材確保が企業にとって、技術面、予算面の課題に増して高いハードルとして認識されていることがわかります。

この調査を踏まえ、政府の新しい資本主義実現会議が公表した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画・フォローアップ」(2021年6月策定)では、サステナブル人材の確保・育成に向け、企業の取り組みを後押しする方針が盛り込まれています。

このようにサステナビリティ分野の人材確保は今や、行政と民間事業者が一体となって取り組むテーマとして注目を集めています。

とはいえ、企業が自前で専門人材を育成することは簡単ではありません。脱炭素分野の戦略を立て、それを実行に移すために必要となる知識は排出量算定の手法を含め広範にわたるからです。
また、排出量の削減やその効果の測定などに関するルールをめぐっては国内外でさまざまな推進団体や枠組みがダイナミックに議論を展開しています。サステナビリティのエキスパートは足元の状況にキャッチアップするため、常にアンテナを張り続け、情報をアップデートし続けることが求められます。

教育プログラムの提供事例

最近は教育機関や民間事業者などが主体となって、サステナビリティの最新の動向に関する教育プログラムを提供する動きが広がっています。ここからは、サステナビリティにフォーカスしたプログラムを提供しているサービスの事例をいくつかご紹介します。

Terra.do(テラ・ドゥ)

Terra.doは、連続起業家のアンシュマン・バプナ氏が2020年にシリコンバレーを拠点として設立した、気候変動に特化したオンライン教育プラットフォームです。12週間にわたって開かれる参加型のコース「気候変動:行動のための学習」(Climate Action: Learning for Action)が有名です。

この授業は、受講生20人程度がクラスメートとなり、毎週、指定された資料やテクストに基づいてディスカッションを行います。
筆者も、このコースを体験しました。単に講師の説明を聞くだけでなく参加者側にも発言の機会が与えられることで、自分の力で考え、意見を言語化して仲間と共有し合うプロセスの中で、サステナビリティに関する自分なりの考えを固める契機になると感じました。

授業料1,900ドル(記事作成時点)は必ずしも手頃とは言い切れないかもしれませんが、双方向性を重視した仕組みによって、オンラインでもスキルが身につく実感を得やすい点は十分に評価できるでしょう。

Coursera(コーセラ)

Courseraはスタンフォード大学の教授らが中心となって2012年に設立されました。 イェール大学を含む有名大学の講義などをオンラインで受講できる教育サービスを提供しており、個別授業の単位だけでなく、一部の大学については学士や修士を取得することもできます。連携先の教育機関等は270超(企業体を含む)に上り、これまでに1億1000万人以上(公表ベース)がアクセスしている一大オンライン教育プラットフォームです。

Courseraが提供している授業の中には、脱炭素を含むサステナビリティ分野にフォーカスした講義も多数含まれています。記事執筆時点でアクセス可能な講義の例としては、イリノイ大学のジョナサン・トムキン博士による「サステナビリティ入門」(”Introduction to Sustainability”)や、コロンビア大学のジェフリー・サックス氏が講師を務める「持続的発展の時代」(”The Age of Sustainable Development”)などが挙げられます。

また、スタンフォード大学ではCourseraとは別に、2022年9月、脱炭素などの動向や実践的知識について学ぶ「サステナビリティスクール」が新設されたことも話題となりました。

edX(エデックス)

edXは、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学において共同で設立され、世界中の教育機関で構成される非営利機関が運営するプラットフォームです。足元で4400件超のオンラインプログラムを提供しています。

サステナブル分野の講義も充実しており、基礎的なプログラムだけでなく、足元で注目を集めているテーマに焦点を当てた講義の多さも特徴のひとつです。
記事作成時点でアクセス可能な例としては、英エディンバラ大学などに所属する講師陣が提供する、「気候変動―炭素回収と貯留」(”Climate Change: Carbon Capture and Storage”)、ロンドンのインペリアル・カレッジ・ビジネス・スクールのチャールズ・ドノヴァン氏が担当する「気候変動―金融面のリスクと機会」(”Financial Risks and Opportunities”)などがあります。

国内でも連携の動き

日本国内においても、教育機関どうしの連携の動きがみられます。2021年には文科省、経産省、環境省の先導によって、脱炭素に向けた積極的な取り組みを行う大学の連携の枠組み「カーボンニュートラル達成に貢献する大学等コアリション」が設立されました。

CourseraやedXと異なり、コアリション(複数グループでの提携)自体が講義の一般公開や配信を行うわけではありませんが、各大学の知見や取組事例を共有するシンポジウムやワーキンググループを運営しており、今後の活動のさらなる展開が期待されています。

まとめ

政府がリスキリングの後押しによって人材流動性の向上を図る状況下、新たなキャリアの選択肢を拡大する手段として、脱炭素を含むサステナビリティ分野は魅力的な研究テーマといえるでしょう。

大切なのは、サステナビリティ分野の知見を活かして具体的にどのような事業に携わりたいのか、どのような役割を果たしたいかについて、あらかじめできるだけ明確なビジョンを持っておくことです。どのような社会的課題に関心を持っているのか、どのような問題を解決したいかなどを改めて考えてみることもよいかもしれません。

そのうえで、今回ご紹介した事例なども参考にしていただき、ご自身の(あるいはご自身の勤め先の)課題意識に合致するプログラムを探してみるのも進め方の一つとなります。

<参考文献>

内閣府 経済財政白書(2022年度)
https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je22/pdf/p030002.pdf

内閣官房新しい資本主義実現会議 新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画・フォローアップ(2022年)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/fu2022.pdf

Terra.do
https://www.terra.do/

Coursera
https://coursera.org/

edX
https://www.edx.org/

京都大学 エデックスとは
https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/static/ja/news_data/h/h1/news7/2013/documents/130521_1/01-878ba9eb39b1fb1354a5e690919fe145.pdf

カーボンニュートラル達成に貢献する大学等コアリション
https://uccn2050.jp/

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