バイオマス発電のライフサイクルGHG排出量とは?
2023/12/14バイオマス発電のライフサイクルGHG排出量とは?
2023/12/14植物などに由来する資源を利用して電気を作り出すバイオマス発電の導入が広がっています。政府は2050年カーボンニュートラル社会の実現に役立てようと、環境整備を通じて更に拡大を目指しています。一方、カーボンニュートラルへの貢献度を客観的に検証するには、栽培や燃料製造時を含めた「ライフサイクル温室効果ガス排出量」(以下、ライフサイクルGHG)にも目を向ける必要があります。今回の記事では、バイオマス燃料のライフサイクルGHGとはどのように算定するのか、そして発電事業者や一般事業者はどのような対応を求められるのかについて、ご紹介します。
バイオマスエネルギーの現状
バイオマスの主な使い方としては、電気を発生させるほかにも、燃やして熱エネルギーを作り出す、輸送燃料の代替として車や航空機を動かす、炭化させた「バイオ炭」を土壌に撒いて二酸化炭素を吸収する――などが挙げられます。今回の記事ではこのうち、特にバイオマス発電の分野にフォーカスします。
木は生まれてから伐採されるまでの間、光合成によって大気中に含まれるCO2を吸収・固定しています。このバイオマス燃料を燃焼させる段階ではたしかにCO2を排出しますが、伐採前の樹木や伐採後に再生した樹木がCO2を取り込んでいるため、全体としてみればバイオマス燃料は大気中のCO2濃度に影響を与えないというのが政府の見解です。
バイオマス発電は近年、拡大基調が続いています。国内の導入量は2019年時点で4.5GWでしたが、3年後(2022年度末時点)は6.9GWに増加。政府は2030年度までに8.0GWに拡大することを目標に掲げています。一般的に1GWで数十万世帯の電力需要をまかなうとされており、8.0GWなら100万世帯以上の電力需要に匹敵するといえるでしょう。
一口にバイオマスといっても、間伐材や剪定枝などの木質系バイオマスや、稲のもみ殻などの農業残さ、廃棄された食用油などの食品系など、さまざまな種類のバイオマス燃料があります。FIT・FIP制度の対象となる燃料の種類も増え続け、最近ではココナッツの殻やひまわりの種などが公認のバイオマス燃料として新たに追加されました。
廃棄物系資源 | 木質系バイオマス | 製材工場残材 |
建設発生木材 | ||
製紙系バイオマス | 古紙 | |
製紙汚泥 | ||
黒液 | ||
家畜排せつ物 | 牛ふん尿 | |
豚ふん尿 | ||
鶏ふん尿 | ||
その他家畜ふん尿 | ||
生活排水 | 下水汚泥 | |
し尿・浄化槽汚泥 | ||
食品廃棄物 | 食品加工廃棄物 | |
食品販売廃棄物 | ||
厨芥類 | ||
廃食用油 | ||
その他 | 埋立地ガス | |
紙くず・繊維くず | ||
未利用系資源 | 木質系バイオマス | 森林バイオマス(間伐材など) |
その他木質系バイオマス(剪定枝など) | ||
農業残さ系 | 稲作残さ | |
麦わら | ||
バガス | ||
その他農業残さ | ||
生物系資源 | 木質系バイオマス | 短周期栽培木材 |
草本系バイオマス | 牧草 | |
水草 | ||
海草 |
バイオマス燃料のライフサイクルGHGとは
(資源エネルギー庁作成資料を基に作成)
ライフサイクルGHGを算出することは、簡単ではありません。バイオマス燃料が作りだされ、消費されるまでには前処理や変換工程を含む加工や、原料や燃料の輸送といったプロセスがあります。
また、バイオマス発電で使用する燃料にはたくさんの種類があります。栽培、加工、輸送、発電という各段階の排出量を含めたライフサイクルGHGを算定する方法も、燃料の種類によって異なる場合があります。
ライフサイクルGHG算定の基本的な考え方
発電事業者によってライフサイクルGHGの算定方法にバラツキがあると、脱炭素に貢献している良質なバイオマス発電の取り組みが、見過ごされてしまうかもしれません。
そこで国は、バイオマス発電のライフサイクルGHGの算定範囲や算定方法について一定の基準を設けようとしています。事業者が脱炭素への貢献度を同じ基準で判定できる環境を整えることで、バイオマス発電の拡大にはずみをつける狙いがあります。
経済産業省と資源エネルギー庁は、ライフサイクルGHGの比較可能性を高めるため、①算定式②排出量の基準③確認方法について、それぞれ標準化を進めています。
具体的な計算式はとても長大で、燃料の種類によって細かい計算方法も異なるので、ここではバイオマス発電に共通するおおまかな考え方をご紹介します。
FIT制度やFIP制度(変動する売電価格にプレミアムを上乗せする仕組み)におけるライフサイクルGHGの計算方法は、次の通りです。
(1)まず、各プロセスにおける排出量を一つ一つ、足し合わせていきます。 具体的には、土地利用変化を含む炭素ストックの変化に伴う排出量・排出削減量、栽培による排出量、加工による排出量、輸送による排出量、発電による排出量です。
(2)CO2回収・隔離・代替利用を実施した場合、排出の削減に成功した分だけ、(1)の数値から割り引きます。
(3)上の計算で出た数値を、バイオマス発電の発電効率で割ります。
(資源エネルギー庁作成資料を基に作成)
このようにして、バイオマス燃料を用いて発電する時、ライフサイクル全体としてGHGをどのくらい排出しているのかを算定することができます。
発電事業者の新ルールと、一般事業者への影響
23年4月には、バイオマス燃料を手掛ける発電事業者に一定の対応を求める制度がスタートしました(FIT/FIP認定時の「ライフサイクルGHGの確認に係る発電事業者の実施事項」の改定)。これによってバイオマスの燃料の種類ごとに、ライフサイクルGHGを算定し、基準値を上回っていないかを確認、申告することが必要になりました。
政府は引き続き、ライフサイクルGHGを確認するための第三者認証の仕組みの構築に向けて検討を続けています。
ライフサイクルGHG算定の取り組みは、これまで見えにくかったバイオマス発電における総排出量の「見える化」を推し進める効果が期待できます。たとえば自社が契約している電力事業者のライフサイクルGHGのデータを確認することで、Scope2排出量などを削減する戦略を立てるのに役立つことでしょう。
今後、制度整備を通じ、バイオマス発電のライフサイクルGHGの透明性がいっそう向上することで、電力を売る側だけでなく、買う側の一般事業者も、より安心して再エネに取り組むことのできる環境が広がりそうです。
<参考資料>
資源エネルギー庁 今年度のバイオマス持続可能性WGの進め方
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/shin_energy/biomass_sus_wg/pdf/022_01_00.pdf
バイオマス持続可能性ワーキンググループ FIT/FIP制度におけるバイオマス燃料のライフサイクルGHG排出量の規定値について
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/dl/fit_2017/legal/lifecycleGHG_bio.pdf
林野庁 なぜ木質バイオマスを使うのか
https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/biomass/con_2.html
NEDO 再生可能エネルギー技術白書
https://www.nedo.go.jp/content/100544819.pdf
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