政府がグリーン分野への資金供給に本腰。サステナブル金融の「次のステップ」とは
2023/11/10政府がグリーン分野への資金供給に本腰。サステナブル金融の「次のステップ」とは
2023/11/10カーボンニュートラル実現の目標達成に向け、金融庁が脱炭素などグリーン分野への資金供給を強化しようとしています。企業にとって、グリーン分野の事業に必要な資金を確保する選択肢はどのように広がっていくのでしょうか。2023年6月に公表されたサステナブルファイナンス有識者会議第3次報告書をもとに、足もとの状況をご紹介します。キーワードは「インパクト投資」、「未上場企業」、そして「NISA」です。
実践重視の「第2ステージ」へ
菅政権が2050年までのカーボンニュートラル目標を打ち立てた2020年10月以降、政府は脱炭素に向けた企業の取り組みを後押しする環境整備を継続的に推し進めてきました。
これまでのグリーン分野における行政の取り組みはどちらかといえば、「なぜ脱炭素が重要なのか」「どのような対応が必要になるのか」といったところの普及・啓発活動に重きが置かれていたと言えます。
こうした状況を、報告書はサステナブルファイナンス拡大に向けた歩みの「第1ステージ」と名づけています。
その上で報告書では、今後は資金調達面を含め、より具体的、実践的に企業の取り組みを後押しする「第2ステージ」へと歩みを進める必要があるという考えが打ち出されています。
その宣言どおり、政府は今まさにグリーン分野への資金供給を、企業の規模に関わらず後押しする制度整備に本腰を入れようとしています。具体的にどのような政策が打ち出されることになるのか、報告書の内容をベースに見ていきましょう。
インパクト投資の「新規性」とは
近年、環境的・社会的課題の解決と投資リターンの確保の両立を目指す「インパクト投資」への注目が高まっています。
どのような投資手法がインパクト投資にあたるのか、その線引きをめぐっては国際的に様々な意見があります。金融庁は報告書の中で、日本独自のインパクト投資の定義として新たな「4要件」を打ち出しています。
インパクト投資の新4要件
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- ①意図
- ・投資が実現する効果と収益性双方を明確化し、戦略を策定
- ・投資の負の効果も特定し軽減を図る
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- ②追加性
- ・投資が行われない場合と比べて、「効果」と「収益性」を創出・実現
- ・資金面・非資金面での支援の実施
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- ③特定・測定・管理
- ・客観性のある指標等を通じ、「効果」や「収益性」を定量・定性的に測定・管理
- ・投資先との継続的な対話を通じ効果の実現を促進
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- ④新規性等の支援
- ・市場や顧客に変化をもたらし又は加速し得る新規性・優越性を見出し支援
- ・新規性・潜在性を引き出す対話を通じ、市場の開拓・創出・支持の実現につなげる
※金融庁公表資料より弊社作成。
このうち特に「新規性等の支援」という最後の項目については、スタートアップ支援に力を入れている政府全体の方針を反映したものと考えられます。
2022年11月に政府の新資本主義実現会議が策定した「スタートアップ育成5カ年計画」では、スタートアップへの投資額を官民で10兆円規模に拡大する目標が立てられました。
さらに2023年6月策定の骨太の方針では、スタートアップ支援の一環としてインパクト投資を推進する方針を明記。「インパクト投資の促進等を通じ社会的起業家(インパクトスタートアップ)への支援を強化し、社会的起業家のエコシステムの整備を図る」と宣言しています。
このようにインパクト投資の促進は、スタートアップへの投資額の目標を達成する一つの重要な手段として位置付けられています。
「新規性」とは、関連資料によれば、市場や顧客に変化をもたらしたり、変化を加速させたりする取り組みを意味しています。
インパクト投資の要件として「新規性」が盛り込まれたことで、新しい切り口でグリーン分野に取り組むスタートアップや中堅・中小企業が、機関投資家やファンドなどからの資金提供をいっそう受けやすくなることが見込まれています。
NISA×GX
また、2024年に始まる新しいNISA(少額投資非課税制度)も、グリーン分野への資金供給を活気づけることになりそうです
新しいNISAで投資できる金融商品については、投資信託を運用する会社が金融庁に届け出るなどの手続きを経て事前の「お墨付き」が必要となります。
政府は、このNISA対象商品として、グリーン関連の商品を積極的に開発するよう金融業界に働き掛けています。また、2023年4月に開かれた経済財政諮問会議の会合では、ESGへの積極的な取り組みが認められる企業を投資対象として選定する「ESGインデックス」を開発する案も議題に上りました。
投資家向けGX投資商品の多様化
- ・家計金融資産2000兆円がGX投資によって「成長と資産所得の好循環」の実現につながるよう、投資家のニーズに応じた多様な金融商品を育成。
- ・新NISAにふさわしいESGインデックスや長期商品の開発・浸透、アジアのGXに資する外国投資信託やADB債の個人投資家への普及といったESG商品の多様化を進める。こうした環境下で、顧客本位の業務運営や金融経済教育を強力に推進。
※経済財政諮問会議公表資料より。下線は弊社
政府は併せて、投資信託や機関投資家による未上場企業への投資を促進する環境整備にも取り組んでいます(※)。ESGインデックスが実際に開発されれば、上場企業だけでなく未上場の中堅・中小企業も、新たなインデックスの対象企業として採用されることで資金調達の手段を増やすことができると予想されます。
グリーン分野への資金流路が拡大へ
今回の記事では、国がグリーン分野への資金供給をどのように後押ししようとしているか、金融庁のサステナブルファイナンス有識者会議の報告書とその関連資料を基にご紹介してきました。
政府が掲げるGX戦略については、20兆円の発行を予定する「GX経済移行債」が注目されています。
GX経済移行債は大規模な上場企業への資金供給に使用されることが予想されていますが、今回取り上げた金融庁の施策は、中堅・中小企業やスタートアップを含む幅広い企業に対し資金供給の選択肢を用意するものです。脱炭素などグリーン分野に積極的に取り組む企業が、その事業規模にかかわらず資金調達がしやすくなる環境を政官一体で整備しようとしているともいえます。インパクト投資促進、NISA拡大、スタートアップ支援といった施策が互いに相乗効果を生み出し、脱炭素に注力する幅広い企業にその恩恵が行き届くことが期待されます。
<参考資料>
金融庁 「サステナブルファイナンス有識者会議第三次報告書」の公表について
https://www.fsa.go.jp/news/r4/singi/20230630.html
金融庁 「インパクト投資等に関する検討会報告書」の公表について
https://www.fsa.go.jp/news/r4/singi/20230630_2.html
内閣府 経済財政運営と改革の基本方針2023
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2023/decision0616.html
内閣府 対日直接投資促進にかかる施策について
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2023/0426/shiryo_04.pdf
金融庁 金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」第二次中間整理の公表について
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20221221/houkoku.pdf
脱炭素化について
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