【国際】シンガポールにおける脱炭素の取り組みをご紹介​

2023/07/19

【国際】シンガポールにおける脱炭素の取り組みをご紹介​

2023/07/19

シンガポールの脱炭素目標

日本では2050年カーボンニュートラルを目指し様々な取り組みを実施しておりますが、海外でも同様の脱炭素社会実現するための取り組みが進んでおります。 シンガポールでは2022年10月25日にローレンス・ウォン副首相兼財務相により、「2050年までにCO2排出量を実質ゼロ(ネットゼロ)」*1とする目標を発表。
元来2030年CO2排出量約6500万トン(パリ協定目標:2005年比36%削減)を目標値にしていましたが、排出量ピークを前倒しすることで同年約6,000万トン(同41%削減)まで削減するなどの新たな目標を立てて脱炭素社会に向けて推進しています。

今回は、気候変動に対して意欲的な行動をとっているシンガポールにおける脱炭素の取り組みをご紹介いたします。

シンガポールの電気に関わる脱炭素への取り組み

シンガポールでは、CO2排出量の約4割が電力部門を占めることから電力部門における排出削減に注力していく方針ですが、地熱などの高品質の熱水資源が国内に存在しません。
このため、代替エネルギーの確保は非常に難しく、1)天然ガス、2)太陽光、3)地域送電網などへの切り替えを進めています。

1)発電に理由するエネルギ−元を従来の重油からクリーンな化石燃料である天然ガス*2に切り替えることで温室効果ガス(GHG)排出量を削減しています。
2000年時点では18%だった天然ガス発電の割合は、2021年には95%以上にまで上昇しています。

2)太陽光発電はシンガポールにとって最も有望な再生可能エネルギーです。2025年までに1.5ギガ、2030年までに2ギガワット・ピーク(GWp)を太陽光で発電するという目標を掲げ、オフィスビルの屋上やフェンス、貯水池や沖合などでの発電を開始しています。*3
とはいえ、元々オフィスビル等はガラスや反射の目立つデザインが多いですし、オフィス街や商業設備などで太陽発電パネルが目立ったり景観を損ねたりということはありません。公園や貯水池、公共施設などに行くと太陽光発電パネルを見るかなという程度です。

3)シンガポールは、2035年までに総供給電力の30%にあたる4GWの低炭素電力輸入を予定しています。 2022年6月から、ラオス・タイ・マレーシア・シンガポール電力統合プロジェクト(LTMS-PIP)*4の一環として、タイとマレーシアを経由し、ラオス人民民主共和国(PDR)から再生可能な水力発電の輸入を開始しています。

シンガポールの炭素税に関して

シンガポールでは、2019年1月1日から東南アジア初の炭素価格制度である炭素税の導入を実施しています。年間25,000tCO2e以上のGHG排出量となる事業施設の運営事業者に以下の炭素税が課されます。*5

・2019〜2023年: 5SGD(約510円)/tCO2e
・2024〜2025年:25SGD(約2600円)/tCO2e
・2026〜2027年:45SGD(約4600円)/tCO2e
・2030年までに50SGD~80SGD(約5,100〜8,200円)に移行予定

2030年までに50〜80SGD(約5100〜8200円)/tCO2eへと段階的に課税を増やすることで、企業側の対策を求めています。これらの税収は、脱炭素化努力とグリーン経済への移行を支援し、企業や家庭への影響を緩和するために使用される予定です。

シンガポールのカーボンクレジットによるCO2排出量相殺は、CO2排出量の5%までとされていますおり、相殺用のクレジットは2023年下半期に詳細提示がある予定*6です。 なお、現在の日本の炭素税は289円/tCO2 *7、石油・石炭の購入時に課税されます。欧州フランスは45EU/tCO2(約6700円)*8 の税金が課されております。

シンガポール企業の脱炭素活動報告義務について

シンガポール証券取引所(SGX)では、 2023年より上場全企業に対して、サステナビリティレポートの中でTCFDに従った公表を義務付け、企業の自発的な脱炭素活動を促しています。*9

会計年度開始に向けて ベースラインレポートの実践 レポートが発行された暦年
2022年1月1日〜2022年12月31日 気候変動に関する報告は、「遵守か説明か」に基づいてすべての発行体に義務付けられています。 2023年
2023年1月1日〜2023年12月31日 気候変動に関する報告義務:
(a)金融業界 (b)農業、食品および林産業(c)エネルギー産業
*他事業に関しては「順守 or 状況説明」の報告義務あり
2024年
2024年1月1日〜2024年12月31日 気候変動に関する報告は、(a)金融業界(b)農業、食品および林産業(c)エネルギー産業(d)素材・建築産業(e)運輸業 *他事業に関しては「順守or 状況説明」報告義務あり 2024年

シンガポールのEVについて

シンガポールは、2050年までに陸上輸送のGHG排出量を80%削減することを目標としています。
電気自動車(EV)はGHG排出量が約50%となることが見込まれており、国内の自動車を内燃機関(ICE)車からEVに切り替えることを推奨しています。シンガポールの街中ではEVのライドシェアやタクシーが普及し、住宅や駐車場にはEVスタンドが多く見られ、その数は現在3600まで増えています。EVスタンドではEUタイプであるAC Type2 / DC CCS2の規格が主流です。
自家用車EV普及割合は1%ですが、EVの売上では車両全体のうち12%、新車では22.36%をEVが占め、今後の急拡大が見込まれます。

「シンガポールEVビジョン」*10
・2019〜2023年: 5SGD(約510円)/tCO2e
・2024〜2025年:25SGD(約2600円)/tCO2e
・2026〜2027年:45SGD(約4600円)/tCO2e
・2030年までに50SGD~80SGD(約5,100〜8,200円)に移行予定

まとめ

シンガポールはアジアの流通・金融のハブとしての立ち位置を将来も確保するため、政府が主体となって近隣国に先駆けて脱炭素の先進的な取り組みを実施しています。​

もちろん、シンガポールは日本と状況が違い、様々な施策を積極的に実施しやすい環境です。​
単純にシンガポールで実施している取り組みをそのまま日本を始めとした各国に置き換えて考えることはできないのですが、観光地や金融、流通だけでなく、脱炭素社会の推進という観点でも注目すべき国の一つですね。

出典:

*1:「2050年までにCO2排出量を実質ゼロに」
https://www.nccs.gov.sg/media/press-releases/singapore-commits-to-achieve-net-zero/

*2:日本の環境省資料-燃料別CO2排出量の例
https://www.env.go.jp/council/16pol-ear/y164-04/mat04.pdf

*3 シンガポール政府エネルギー市場庁によるシンガポール太陽発電概要リンク​
https://www.ema.gov.sg/energy-supply-switch-solar.aspx

*4 LTMS-PIP(ラオス・タイ・マレーシア・シンガポール電力統合プロジェクト)
https://www.mfa.gov.sg/Overseas-Mission/Ministry-of-Foreign-Affairs---Permanent-Mission-of-the-Republic-of-Singapore/Recent-Highlights/2022/06/LTMS-PIP

*5:シンガポール国家気候変動事務局(NCCS)「シンガポールの炭素税」​
https://www.nccs.gov.sg/singapores-climate-action/mitigation-efforts/carbontax/

*6 シンガポール環境大臣による炭素クレジットに関する議会質問に対する口頭答弁
https://www.mse.gov.sg/resource-room/category/2023-02-07-oral-reply-to-pq-on-carbon-credits

*7 環境省「地球温暖化対策のための税の導入」
https://www.env.go.jp/policy/tax/about.html

*8 TAX FOUNDATION「欧州の炭素税」
https://taxfoundation.org/carbon-taxes-in-europe-2021/

*9:SGX シンガポール証券取引所による上場企業規定(Sustainability Report関連)「2023年以降のSGX上場企業報告義務内容」
https://www.sgx.com/sustainable-finance/sustainability-reporting

*10:シンガポール陸運局 シンガポールのEVビジョン
https://www.lta.gov.sg/content/ltagov/en/industry_innovations/technologies/electric_vehicles/our_ev_vision.html

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