カーボンリムーバル、DACが注目される理由とは

2023/04/26

カーボンリムーバル、DACが注目される理由とは

2023/04/26

社会全体で炭素排出量をゼロに​​するーボンニュートラルの実現に向けた仕組み作りが世界各国で進む中、実効性の高さにこだわった、洗練されたアイデアも多く見られるようになってきました。欧米において急速にその存在感を強めているカーボンリムーバルも、その一つです。今回はカーボンリムーバルとは何なのか、そしてカーボンクレジットやカーボンオフセットといった既存の​​枠組みおいて、カーボンリムーバルがどのように位置付けられるのか、事例の紹介を交えてご紹介していきます。

カーボンリムーバルとは?

カーボンリムーバル(Carbon Removal, 英語文献ではCDRと略することも一般的になっています) とは、そのまま日本語に置き換えると、「炭素」(カーボン)を「除去」(リムーバル)することを意味します。以下、カーボンリムーバルとします。

気候変動リスクをもたらす二酸化炭素など温室効果ガス(以下、二酸化炭素と総称)を減らす方法は、2つ考えられます。1つは工場などでの排出量を省エネ化や再エネ転換などを通じて削減する方法。そしてもう1つが今回のテーマである、すでに何らかの理由で大気中に存在する二酸化炭素を回収するカーボンリムーバルという方法です。

カーボンリムーバルをさらに大別すると、森林など自然資源の力によって炭素を吸収するタイプと、後で紹介するマイクロソフト社出資の事例のように、テクノロジーの力などを活用して除去するタイプに分けることができます。

日本でも、2021年に経済産業省が「カーボンリサイクル技術ロードマップ」を改訂し、カーボンリムーバル関連技術の記述を追加するなど、カーボンリムーバルへの注目度が少しずつ高まりつつあります。

カーボンクレジットとの関係

​​​排出権を取引する場として既に整備されているカーボンクレジットの枠組みと、今回焦点を当てるカーボンリムーバルとは、どのような関係にあるのか、​​概要解説いたします。

日本でカーボンニュートラルに取り組む企業の多くは、主として省エネ化や再エネ転換などを通じた排出量削減に取り組んでいます。削減した分は、カーボンクレジット(排出権)として他の企業との間で取引できる仕組みが整備されています。(関連記事リンク「【2022年版】カーボンクレジットの基本をわかりやすく解説」)。

カーボンクレジットを所有する企業は、自社の排出量とオフセット(相殺)することができます。このように、カーボンクレジットの枠組みは社会全体としてカーボンニュートラルという目標をできるだけ早く達成するためのシステムとなります。(オフセット出来る対象・ケースは都度確認となります​​)

また、森林や、特殊な装置でカーボンリムーバルを実行した場合も、自社工場などの排出量を削減したときと同じように、その分をクレジットとして価値化することも​​選択肢としてあります。

もちろん、クレジットを創出せず、あくまで自社企業のカーボンニュートラルに向けた​​取り組みの一環として、カーボンリムーバル実施することもできます。

カーボンリムーバルには、カーボンクレジット創出/獲得やオフセットを含め、地球上から二酸化炭素を除去するという広義の目的もあります。

マイクロソフト出資の事例

カーボンリムーバルの取り組みとして、注目を集めるきっかけとなった事例もあります。
スイスのスタートアップ企業であるクライムワークス社(Climeworks)は、扇風機に似た特殊な装置を使って大気中の二酸化炭素を直接回収し、地中に埋蔵する技術を手掛けています。
同社がDACプロジェクトによって作り出したカーボンクレジットを、出資元である米マイクロソフト社が購入しています。

DACとはDirect Air Capture(直接空気回収)の略で、クライムワークス社は、カーボフィックス社(Carbfix)と連携し、マイクロソフトの出資を受けてこのプロジェクトを推進してきました。

一連の技術が第三者機関DNVの認証を受けたことと相まって、マイクロソフトによる出資、そしてクレジットの購入という行動は今後、サステナブル領域におけるカーボンリムーバルの存在感を飛躍的に高める可能性がありそうです。

GHGプロトコルの基準策定に注目

カーボンリムーバルやCO2排出量削減における企業活動のプロセス改善などは、カーボンニュートラルの実現に向けて重要な役割を担っています。

仮にDAC領域でさらなるイノベーションが生じ、大気中の二酸化炭素を効率よく吸収できるようになったとしても、企業が工場での炭素排出を削減する活動を止めてよいということにはなりません。CO2回収量と排出量が均衡してニュートラルを実現したとしても、排出自体が止まらなければ計算上、空気中に同じ量の二酸化炭素が存在しつづけることになってしまいます。脱炭素社会の実現のためには、削減と除去という2つの領域を車の両輪のようにして推進していくことが大切です。
あわせて、既に構築されつつあるカーボンクレジット・取引枠組みやCO2排出量算定におけるガイドラインも加われば、さらにカーボンリムーバルを促進すると考えられます。
​​​国際的な合意形成が進むことで、今後も脱炭素社会の促進に向けた官民の取り組みが加速することを期待したいと思います。

出典:

経済産業省 「カーボンリサイクル技術ロードマップを改訂しました」
https://www.meti.go.jp/press/2021/07/20210726007/20210726007.html

クライムワークス社 プレスリリース(2023年1月12日付)
https://climeworks.com/news/climeworks-delivers-third-party-certified-cdr-services

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