ライフサイクルアセスメントとは? 国内の例や計算方法をご紹介
2023/03/01ライフサイクルアセスメントとは? 国内の例や計算方法をご紹介
2023/03/01ライフサイクルアセスメントの基礎
ライフサイクルアセスメントとは
ライフサイクルアセスメントとは、製品やサービスがどの程度の環境負荷を生み出すかについて、製造工程だけでなく、原材料の調達から運搬や使用、廃棄・リサイクルまでの過程全体に視野を広げて定量評価(データを数値化して客観的に評価)する手法です。
製品やサービス(以下、「製品」に統一)が作り出されてから完全にその役目を終えるまでを、人間のライフサイクル(一生涯)に見立て、その全体における排出量をアセスメント(評価)することを意味し、略して「LCA」と表記されることもあります。
通常、環境負荷を算定する場合には、工場で製造される際に排出されるCO2(二酸化炭素を含む温室効果ガス)などの量だけにスポットライトが当てられがちです。しかし実際には図1のとおり、製品という存在は資源採掘、原料生産、(工場などでの)生産、消費そして処理・処分などという一つ一つのプロセスでそれぞれCO2を排出しています。
なぜライフサイクルアセスメントが必要とされるのか
CO2排出量を測定するにはさまざまな手段が存在しますが、そのなかでも、ライフサイクルアセスメントにはさまざまな利点があります。
ライフサイクルアセスメントを実施する主なメリットとしては、例えば製品の実態に即した排出量を高い精度で算定できるということに加え、フローを細分化することで排出量の偏りが可視化され、削減に向けた取り組みの優先順位が決められることが挙げられます。
図2のように、生産工程だけにフォーカスを当てると一見、製品Aの方が製品Bよりも排出量が多いという場合を仮定します。
これを、ライフサイクルアセスメントの手法に基づいて厳密に評価すると、図3の通り、実は製品Aの方が全体として製品BよりもCO2排出量が少なく、環境負荷の軽減という観点でより優れた製品であることが見て取れる場合があります。
このように、製造工程だけを対象とした通常の評価では見つけ出すことが難しいような、環境負荷軽減の観点での製品の新たな長所が見つかる可能性があります。
仮にライフサイクル全体での排出量算定結果が予想より大きめの数値になったとしても、削減の余地を「見える化」することで、サステナビリティ向上を目指す企業にとっては取り組みの優先順位を決定する際、重要な判断材料となるメリットがあります。
事例紹介
既にいくつもの国内企業が、ライフサイクルアセスメントによる排出量算定に取り組んでいます。ここでは、その代表的な例の一部を紹介します。
トヨタ「The MIRAI LCA レポート」
トヨタ自動車は2015年、初の量産型FCV(燃料電池自動車)であるMIRAIの発売にあわせ、「The MIRAI LCAレポート」を公表しました。このレポートは、ライフサイクルアセスメントの考え方が国内で知られるようになったきっかけの一つとして知られています。
このレポートの特徴は、1台の車が製造、使用、廃棄されるまでの各過程を綿密に細分化し、工程ごとにCO2排出量の算定を試みている点です。評価領域(調査範囲)の規定を一部簡略化して紹介します(表1)。
素材製造 | 資源採掘
素材製造 素材輸送 |
---|---|
車両製造 | 部品製造(内製《製造端材リサイクル》、外製)
部品輸送 車両製造 車両輸送 |
販売 | 販売店 |
走行 |
燃料製造
燃料消費 |
メンテナンス | メンテナンス部品製造(リサイクル) |
廃棄 |
解体処理(リサイクル)
破砕処理(リサイクル) 埋立/償却 |
網掛け部分はレポートの評価領域外。
このように外製される部品の製造工程や、メンテナンスに用いる補修用部品の製造工程までも、自動車自体の評価対象に含まれています。
また、このレポートでは通常のガソリン車と比較し、HV(ハイブリッド車)やガソリン車が環境負荷をどれくらい軽減できるのかについて、ライフサイクルアセスメントに基づいた比較分析結果が示されています。例えば化石燃料消費量については、通常のガソリン車に対しHVは4割、MIRAIは6割程度を削減できるとしています。
MIRAIは世界初の燃料電池自動車であり、発売当初、FCVに期待される環境負荷軽減の効果について、世の中に知れ渡っていませんでした。ライフサイクルアセスメントの実施には、排出量削減に取り組むメーカーにとって、自社製品の優位性を具体的なデータに基づいた精緻な分析によってアピールできるメリットがあるといえるでしょう。
パナソニック 家電リサイクル樹脂の循環型サプライチェーン構築
パナソニックは「パナソニック環境ビジョン2050」(2017年策定)において、ライフサイクルアセスメントによる評価を含む「製品環境アセスメント」の実施を宣言。目標値設定、中間評価、最終評価という3段階で製品の環境負荷の度合いを算定し、環境性能を向上させた製品「グリーンプロダクツ」の認定を進めています。
また、2021年にはライフサイクルアセスメントの評価に基づき、樹脂の廃棄を減少させて再利用を促すサイクルを生み出す「循環型サプライチェーン」を構築する取り組みが経済産業大臣賞を受賞しました。
パナソニックが構築した循環型サプライチェーンの概略を示したのが、経済産業省の公表資料から抜粋した図4です。この概要図から見て取れる通り、ライフサイクルアセスメントに基づいた排出量の削減においては、取引先企業との綿密な連携と十分な目線合わせが重要となります。
ライフサイクルアセスメントの計算方法
ライフサイクルアセスメントの手法を利用したCO2排出量の算定を実際どのように進めればよいのか、具体的な手順を紹介します。
ライフサイクルアセスメントの算定作業は、通常の排出量算定よりもやや煩雑ですが、おおまかに見ると次の5つのステップに分けることができます。
・評価領域を明確化する
・資料を収集する
・データを入力する
・原単位と掛け合わせる
・集計する
①評価領域を明確化する
まずは評価領域(調査範囲)を決めるところから始めます。
最初に調査対象となる製品・サービスを決定します。サイズや性能の異なるシリーズ製品がある場合など、どこまでを評価領域とするか、できるだけ具体的に明確化しておきます。
つづいて製品のライフサイクルについて情報を整理し、評価領域を確定します。一般的な製品であれば、ライフサイクルを原料調達、製造、利用・消費、廃棄・リサイクルの各過程に細分化することができるでしょう。場合によっては製品を構成する部品の製造工程やメンテナンス部品の製造工程などが含まれることもあります。評価対象の視野を広げると、それだけ将来的なCO2削減の余地を見出す機会が増え、結果的に企業価値の向上に繋がると考えられます。
②資料を収集する
評価領域を決定したら、製品に使用される原材料の種類や量、実際に製造されている数量、ユーザーの使用量や消費量、廃棄される量などを示す資料を収集し、それぞれのプロセスにおける電力や燃料の使用量を算定します。
自社工場における製造工程のデータに関しては、管理部門などに集約されている場合があります。一方、個別の詳細なデータについては担当部署ごとに保管している場合もあるため、ライフサイクルアセスメントの意義に関する認識を関係部署間であらかじめ共有しておくことが重要です。さらに場合によっては、資源供給会社や部品メーカーなどの取引先から情報を取り寄せることもあります。
③データを入力する
社内外から取り寄せたデータを表計算やLCA専用のソフトウェアなどに入力します。この際、できれば年別だけでなく、月別、日別の使用量まで細かく記録しておくと整理しやすいです。
また、基礎データの入力が終わったら、忘れずに各データの単位を揃えるようにしましょう。たとえばガソリンの単位がリットルとキロリットルとが混在したまま次のステップに進むと、ライフサイクルアセスメントの評価結果全体に狂いが生じ、あとで計算し直すのに膨大な手間がかかることがあります。
④原単位を掛け合わせる
次に、それぞれの使用量データに排出係数(原単位)を掛けます。原単位とは、ある燃料(または電力等)を一定量使用した場合にどれだけのCO2が排出されるかを示す値です。原単位は軽油やガソリンなど種類ごとに異なり、国内企業の実務では環境省が取りまとめている一覧表に基づいて算定することが一般的です。
⑤集計する
④で算出した排出量の数値を足し合わせることで、製品のライフサイクル全体における排出量を算定することができます。
また、原料調達や部品製造、本体製造、消費、廃棄・メンテナンスという各プロセスに細分化して集計することで、CO2排出量の偏りを「見える化」することもできます。
まとめ
製品の製造工程だけでなく、原材料の調達から廃棄・リサイクルまでというライフサイクル全体に視野を広げるライフサイクルアセスメントについて、本記事では国内事例や実際の計算方法を含めて解説してみました。CO2排出量削減に向けた実効性の高い戦略をどのように立案すべきか検討する場合、自社におけるライフサイクルアセスメント導入も一案となります。
出典:
国立環境研究所 環境展望台 環境技術解説 ライフサイクルアセスメント(LCA)
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=57
トヨタ The MIRAI LCAレポート
https://global.toyota/pages/global_toyota/sustainability/esg/challenge2050/challenge2/life_cycle_assessment_report_jp.pdf
パナソニックホールディングス パナソニック環境ビジョン2050
https://holdings.panasonic/jp/corporate/sustainability/pdf/sdb2017j-04.pdf
経済産業省 令和3年度資源循環技術・システム表彰
https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211008003/20211008003-1.pdf
環境省 算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧
https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/calc
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