企業向けCO2排出量算定~Scope1 & Scope2編~

2023/03/01

企業向けCO2排出量算定~Scope1 & Scope2編~

2023/03/01

気候変動など社会的課題の解決に向けた活動を推進する世界的潮流を受け、企業間で急速に取り組みが広がりつつあるCO2排出量計算。実際に算定を始めるに当たって、どこから取り掛かればよいのかというご相談をよくお客様からお受けします。本記事では、経営者やサステナブル推進担当者が排出量計算に取り組むうえで、少しでもお役に立てるよう算定の基礎から実務上の注意点まで、概要をご説明していきます。

CO2排出量計算の基礎知識

CO2算定は排出削減の第一歩

日々の社会経済活動を通じて大気中に蓄積されたCO2は気候変動や自然災害の増加など、地球全体の環境に深刻な影響をもたらします。

地球環境と文明社会の持続可能性を高めようと、世界各国でCO2排出量の削減目標を設ける動きが広がっています。日本政府も、2050年までにカーボンニュートラル(排出量実質ゼロ)を達成するとの目標を掲げています。

実際に排出されるCO2の大半は、さまざまな事業を手掛ける企業による活動によって排出されます。社会全体の削減目標を達成できるかどうかは、個々の企業がどれだけ排出量を抑えられるかにかかっているのです。

企業の活動によるCO2排出量を抑えるには、まず、自社や関連する企業の生産活動によって生み出されたCO2の量を適正に算定し、可視化することが大切です。現状を正確に把握し、「見える化」することで、各企業が排出量をどれだけ削減するべきかという個別目標を明確化できるようになるためでもあります。

算定する理由は?

気候変動に対して、世界でも政府やグローバル企業が様々な取り組みを行っており、サプライチェーン(製品の原材料・部品の調達から販売に至るまでの一連の流れ)の中でも同様に対応する意識が生まれてきています。CO2排出量の算定を実施し、削減努力に取り組んでいるかどうかが、企業の本業にも影響しうる状況となっています。

企業が排出量算定に取り組む理由には様々な要素がありますが、たとえば取引関係への影響が挙げられます。企業によっては、取引先企業における排出量のデータを集め、サプライチェーン全体での排出量を計算し、ステークホルダーに開示しているケースが増えています。

自社において排出量データを報告、公表する予定がない場合であっても、取引先からCO2データの提出を求められる可能性があります。間接取引の場合であっても同様です。

高い品質の商品やサービスを生産、提供とあわせて、CO2排出量データ算定の取組状況が、取引先との関係に影響する可能性もでてきます。

また、特に上場企業の場合、CO2排出量算定の取組実績は株価などの企業価値にも影響します。国際間でも環境・社会・ガバナンスなど配慮する企業を重視、選別して行う投資が現在の主流となっています。環境関連では気候変動に対する戦略や企業活動を通じたCO2排出量情報などを適切に開示しているかどうかは、投資マネーを呼び込めるかどうかにも影響する要素となってきています。

政府は現在、四半期ごとに公表する決算短信での非財務情報の開示を充実させる議論を本格化させています。非上場企業にとっても決して他人事ではなく、取引先との関係によっては今後、情報提供の必要性が増すことも予想されます

Scope(スコープ)って?

CO2排出量を算定方法する際、算定の対象範囲によって、「Scope(スコープ)1」、「Scope2」、「Scope3」という3つのカテゴリーに分け、それぞれ別々に計算する必要があります。

<Scope1から3、区分ごとの違い>
・Scope1 自社の直接的な活動によるCO2排出量
・Scope2 電力の使用を通じたCO2排出量
・Scope3 取引先を含めた供給網全体のCO2排出量

上記の通り、Scope1からScope3にかけて、算出する対象とする活動の範囲が広がっていくイメージです。

まずはここから! 排出量算定前に必要な3つの準備

①算定の目的を明確にする

まずは、何のためにCO2排出量を算定するのか、その目的を明確にしていきます。より具体的に設定することが重要です。

たとえば「主要取引先からデータ提供を求められた際、迅速に対応できるよう準備するため」というように目的を明確にすることで、後述する算定範囲や算定機関について判断を下しやすくなります。

②算定対象の範囲を決める

※算定対象範囲は企業ごとの⽬的により異なりますが、CO2を排出する活動のうち、自社において行われている活動を確認します。

CO2は温室効果ガスの一種です。算定対象となりうる温室効果ガスは以下のようにさまざまな種類がありますが、ここでは代表的な例としてCO2を取り上げています。
エネルギー起原CO₂、⾮エネルギー起原CO₂、CH₄、N₂O、HFCs、PFCs、SF₆、NF₃
(⾮エネルギー起原CO₂、CH₄、N₂O、HFCs、PFCs、SF₆、NF₃は化学メーカーや製造業等などが排出)

③算定期間を決める

算定期間は一般的には、 自社の会計期間と一致するよう算定期間を設定します。
ただし、一部温室効果ガスは暦年で設定するものもあります。

Scope1算定の5ステップ

排出量算定に取り掛かるとき、Scope1算定業務を次の5つのステップに分けて整理することで、工程のスケジュールが飛躍的に立てやすくなります。

<Scope1排出量算定の5ステップ>
①必要なデータを集める
②燃料の年間使用量データを入力する
③単位を揃える
④排出係数(排出原単位)を調べ、掛け合わせる
⑤合計値を出す

①必要なデータを集める

まずは、自社排出量の算定に必要なデータを収集します。ガソリン、灯油、軽油、都市ガス、プロパンガスなどの燃料が、それぞれ当該期間中にどれだけ使用されたかを証明する書類を社内から集めます。

工場や事務所で使用するガス、電気などに関するデータは、ガス会社、電力会社から送られてくる明細などの既存書類で用意することが可能です。

また自社が保有する車両で使った燃料(主にガソリン・軽油)も、明細など1次資料を可能な限り収集し、できるだけ燃料使用量を把握することが大切です

②燃料の年間使用量データを入力する

次に集めたデータを基に、表計算ソフトや専用オンラインツールなどに使用量データを入力していきます。

基本的には年単位での燃料使用量を入力するだけで、Scope1排出量の算定という目的を果たすには十分が、できれば年別だけでなく、月別の使用量も記録しておくことをおすすめします。

将来的に排出量を削減する必要が生じた際、どこを削減する必要があるかを分析するためにも有効となります。例えば排出量が決まった月に偏っているのであれば、事業所等の業務実態と照らし合わせてその原因を確認しやすくなります。

取引先から今後、排出量の削減を求められた際に迅速に対応できるよう、使用量データは整理しておくのが理想です。

③単位を揃える

上記でデータの入力が終わったら、各データの単位を揃えるステップに移ります。

たとえばガソリンを例に取ると、データによってリットルと、キロリットルの単位が混在していることがあります。

そこで、バラバラになっている各データの単位を全てキロリットルに揃えて、確認する業務を行います。

④排出係数(原単位)を調べて掛け合わせる

次に、それぞれの燃料使用量に排出係数を掛けます。排出係数とは、企業活動である燃料を一定量使用した場合にどれだけのCO2が排出されるかを示す値です(排出原単位と呼ぶ場合もあります)。

排出係数は、ガソリンや軽油など燃料の種類ごとに異なります。たとえばガソリンを1キロリットル使用する場合と、軽油を1キロリットル使用する場合では、量が全く同じでも排出されるCO2の量には違いがあります。

この排出係数について、環境省が、以下の資料の別表にまとめています。

環境省 算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧
https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/calc

このように燃料の種類ごとに排出係数と使用量を掛け合わせて算定していきます。

⑤合計値を出す

④で算出した各燃料の数値を足し合わせ、自社全体の排出量を計算すれば、Scope1の算定は完了です。また算定までのプロセス全体は後々、排出量削減に向けた戦略を立てる上で大切な情報となるので、計算過程のデータは手元に残しておくことを推奨します。

SCOPE2算定の4ステップ

Scope2においても、計算手順のおおまかな流れはScope1と類似しています。

Scope2算定の4ステップ
①必要なデータを集める
②年間の電力使用量データを入力する
③排出係数を調べ、掛け合わせる
④合計値を出す

①必要なデータを集める

まずは必要なデータを集めるところから始めます。工場などの拠点が複数存在する企業であれば、各拠点で契約している電力会社の明細を確認します。明細には、金額と電力使用量が記載されています。

②年間の電力使用量データを入力する

表計算ソフトなどに、年間の電力使用量データを契約先の電力会社別に打ち込んでいきます。可能であれば、後で分析するうえでも、月別で入力することが望ましいです。

③排出係数を調べ、掛け合わせる

Scope1では燃料の種類ごとに排出係数を掛け合わせましたが、Scope2においては、契約先の電力会社ごとに排出係数を掛け合わせます。電力会社ごとに電力使用量と排出係数を掛け合わせ、排出量を算出する方法を「マーケット基準」と呼びます。

また、電力会社ごとの排出係数を用いず、「同じ地域の電力は同じ排出係数で算出する」という考え方を取る「ロケーション基準」の計算方法もあります。

現在のCO2排出量算定実務においては、マーケット基準とロケーション基準の双方を用い、別々に排出量を算定することが一般的となっています。

電力会社ごとの排出係数については環境省のサイトで確認できます。

環境省 電気事業者別排出係数関連ページ
https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/calc/denki

④合計値を出す

電力会社別に計算した排出量を足し合わせて、企業全体での間接排出量を算定することができます。

外部環境の変化を見据え早期対応を

今回は、CO2排出量算定の基礎を確認するとともに、Scope1とScope2の算定のおおまかな手順について解説してきました。算出方法の細かいルールは変更していくことが予想されますが、大きな変更がある場合などは、今後コラムでもご紹介していきます。

気候変動に対する意識が高まる中、今後、いっそう多くの企業で排出量算定の取り組みが広がっていくことが予想されます。早いうちからCO2排出量算定手法を組織内に定着させることが大切です。

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